CDのマトリクス番号について

クラシックCDの買取・査定で“見た目が同じディスクなのに、値段が大きく違う”——そのカギを握るのがマトリクス番号(Matrix/Runout)とSIDコードです。本ガイドは、国内外のプレス工場・年代の見分け方から、価値評価への影響、撮影方法まで、実務で役立つレベルで体系化しました。

 

マトリクス番号とは

 

場所:ディスク裏面(読み取り面)の内周“ミラーバンド”に刻印またはレーザー印字されている英数文字列。透明ハブ(プラスチック部)に成形で刻まれる小さなコードもあります。

 

役割:プレス工場の生産管理用。ガラス原盤(マスター)やスタンパ、リビジョン(01/02…)などを識別する。内容(TOC/トラック配置)と強く結びつくため、同じ型番でもマトリクスが違えば別ロット・別エディションの可能性が高い。

 

呼び名:「Matrix/Runout」「Mirror-band code」「内周刻印」「ランアウト」など。

 

重要:マトリクス文字列は“収録内容そのもの”ではありませんが、どの版かを追う上で非常に強力な手掛かりになります。

 

CD製造の概略(なぜコードが入るのか)

 

ガラス原盤作成(LBR=Laser Beam Recorder):データを書き込み、メタル化して“スタンパ(母型)”を作る。

 

射出成形(Replication):透明ポリカーボネートにスタンパでピットを転写、反射膜(アルミなど)を蒸着、保護層を塗布。

 

印刷・検査:レーベル面を印刷し、外観検査・再生検査。

 

この工程で、

 

マトリクス文字列(ガラス原盤由来の番号やレーベル管理番号)、

 

SIDコード(IFPI Source Identification Code:不正複製対策のソース識別) が付与される。

 

コードの種類と読み方

 

3-1. マトリクス文字列(例と意味)

 

カタログ番号/社内ジョブ番号:例)410 054-2 01、CDP 746001 2.13:3:5、A0100123456-0101 11 A1

 

版数・リビジョン:末尾の01/02/03…やA1/B2…、@記号等で示されることがある。

 

追加スタンプ:MADE IN U.K. BY XXX、EMI SWINDON、MANUFACTURED BY DADC AUSTRIA など工場名の刻印。

 

同一タイトルでもマトリクスの違い=原盤や工場の違いとなり、音源(デジタルマスター)や誤植修正・ノイズ修正の有無に関わることがある。

 

3-2. SIDコード(IFPI)

 

Mastering SID:IFPI L で始まる(L+英数字)。ガラス原盤/スタンパを作った設備・工程を指す。

 

Mould SID:IFPI xxxx(Lなし)。ディスクを成形したプレス工場の金型を指す。

 

年代の目安:1994年頃以降に本格導入。SIDが無い=概ね1994年以前の可能性が高い(例外あり)。

 

実務TIP:査定で年代を早見するには「SIDの有無」→「マトリクスの書式」→「追加スタンプ」の順に確認。

 

年代推定のコツ(実務向け)

 

SIDコードなし:1980年代〜1993年頃の初期〜中期プレスが多い。

 

欧州“西独期”の表記:Made in W. Germany by PolyGram 等があれば1982〜1990年頃の初期ディスクの可能性。

 

A010…書式:DADC系(オーストリアなど)に多い近年〜90年代以降の典型。

 

EMI SWINDON:英国EMIスウィンドン工場由来。1986年頃〜2002年閉鎖まで流通。

 

MASTERED BY NIMBUS:英国Nimbusのガラス原盤。最終プレスは他工場の場合もあり得る。

 

SONOPRESS C-#### / … A:独Sonopressの代表書式。

 

MPO(France)の書式:… MPO 01 @@ …や日付時刻入りの極小文字列など。

 

工場別チートシート(欧州)

 

5-1. 西ドイツ/ドイツ

 

PolyGram/PDO(ハノーファー)

 

1982年稼働の最初期CD工場。フィリップス/ポリグラム系の“ブルーフェイス/レッドフェイス”等、初期意匠のクラシック名盤が多い。

 

マトリクス例:xxxxxx-2 0x *、ラベル面に Made in W. Germany by PolyGram。

 

Sonopress(ギュータースロー)

 

マトリクス例:SONOPRESS C-#### / [品番] A など。80年代のクラシック多し。

 

 

 

5-2. 英国

 

Nimbus:内周にMASTERED BY NIMBUS(上下2段+ドットで囲む意匠も)。

 

EMI Swindon:マトリクスにEMI SWINDON。ガラス原盤はオランダUden(NLサフィックス)由来の場合も。

 

PDO UK(ブラックバーン):1988〜93年頃のブロンズ化(bronzing)問題で有名。MADE IN U.K. BY PDOの表記あり。

 

 

 

5-3. フランス

 

MPO:… MPO 01 @@ … 等の記法や、極小フォントで日付・時刻とIFPIを含む書式がある。

 

 

 

5-4. オーストリア

 

DADC Austria:A0100xxxxxx-0101 … のようなA010書式。MANUFACTURED BY DADC AUSTRIAの追記あり。

 

 

 

5-5. 中欧

 

GZ(旧Gramofonové Závody/チェコ):旧来は GZ [文字+数字]/のち年次・月を符号化した2文字+数字の連番スキームを使う時期あり。

 

工場別チートシート(北米)

 

Sony DADC USA(Terre Haute ほか):ハブに Made in USA - Digital Audio Disc Corp.(DADCロゴ)スタンプ。マトリクスに DIDP/DIDX 番号が入ることが多い。

 

WEA系(Olyphant/Commerce):SRCロゴや WEA Mfg. OLYPHANT の刻印、LBRを示す W/X/Y/Z で始まる管理番号。

 

Disctronics(USA / UK / AU):MADE BY DISCTRONICS USA/UK/B/A 等の明確な刻印。

 

工場別チートシート(日本)

 

CBS/Sony/CSR:早期の 35DP/38DP/48DP… 系。ハブにCSR COMPACT DISC三連刻印のバリエーションも。独自DIDコード(DIDP/DIDC等)を管理に使用。

 

Nippon Columbia(DENON):1980年代のドットマトリクス風フォントで 1A1/2A1… の末尾がつくことあり。MANUFACTURED BY NIPPON COLUMBIA CO., LTD.

 

JVC(Victor):ブロック体(テトリス風)のレーザー文字。MANUFACTURED BY VICTOR COMPANY OF JAPAN, LTD. 等。

 

Toshiba-EMI:CP35/CP32…等の型番で知られる。黒三角(Black Triangle)など初期意匠。

 

クラシック分野の実務TIP:初期日本/西独プレスは録音・編集・データ転送系が異なるため、コレクター需要が強い。帯・初版解説・スムースサイドケース等の付属も査定に影響。

 

価値評価:マトリクスが効く場面

 

初版・初期プレスの特定:Made in W. Germany…、CSR刻印、ブルーフェイス/レッドフェイス、初期DADC などはプレミアが付くケースがある。

 

誤植修正・エディット違い:同じ型番でもマトリクス違いで曲間やノイズ処理が異なる例がある。

 

素材劣化の留意:PDO UKのブロンズ化は減額対象(再生可否の実機確認が重要)。

 

クラシック特有の需要:名演シリーズ(DECCA、PHILIPS、DG、EMI)初期CDのコレクション性。全集物はディスクごとのマトリクス差も評価ポイント。

よくある質問(FAQ)

Q1. マトリクスが違うと音も違いますか?

デジタルデータが同一でも、エラー訂正やグラスマスターの世代差で結果が異なる場合があります。“別版”の識別情報として扱うのが実務的です

 

SIDコードだけで真贋は判断できますか?

できません。SIDは“どこで作ったか”の手掛かりに過ぎず、真正性は音源・印刷物・流通証跡も合わせて確認します。

 

ブロンズ化したPDO UKは買取不可?

再生不能・読取エラー多発は減額・不可の対象。軽微な変色でエラーテスト良好なら買取可のケースもあります(要実機確認)。

 

同じ型番で“@”が付いたり01→02に変わるのは?

ガラス原盤のリビジョンや再カッティング、工場移管で表記が変わることがあります。

 

用語集(簡易)

 

Matrix/Runout:内周刻印。プレス管理のための識別文字列。

 

SID(IFPI):Source Identification Code。IFPI L(マスタリング)とIFPI xxxx(モールド)。

 

LBR:Laser Beam Recorder。ガラス原盤にデータを書き込む装置。

 

Stamper:スタンパ(母型)。射出成形でピットを転写。

 

TOC:Table Of Contents。トラック配置情報。

 

Bronzing:反射膜の腐食で褐変する現象。PDO UKで多発例。

 

評価が高くなりやすいマトリクス番号の特徴

1. 初期プレスを示す番号
・末尾が「01」「1A1」「1E1」など → 初回ガラス原盤から作られたプレスを示すことが多い。

 

・同じ盤でも「01」と「05」では、前者の方が「初版」に近く高評価になる傾向。

 

例:CBS/Sony 初期「35DP-」シリーズの 1A1 → 高額取引多数。

 

2. 西ドイツ製(W. Germany)時代の表記

 

1980年代初期のCD創世期に作られた盤。

 

マトリクスに MADE IN W. GERMANY BY POLYGRAM や SONOPRESS などがあると評価が高い傾向にあります。

 

特に ブルーフェイス(PHILIPS)やレッドフェイス(Polydor) の時期のマトリクスは高評価商品になりやすいです。

 

3. 日本製初期マトリクス

 

CSR COMPACT DISC刻印(三つ葉のような内周刻印)

 

黒三角(Black Triangle:CP35系) の「1A1」など。

 

DENON/Nippon Columbiaのドットマトリクス風フォントも評価されやすい。

 

4. 工場名入りのマトリクス

 

Nimbus, EMI Swindon, DADC Austria, PDO などが明記されている場合、工場や年代を特定しやすい。

 

特にコレクターは「どの工場でプレスされたか」を重視するため、評価が高まります。

 

5. 誤植や特殊ロット

 

曲順誤植、ラベル誤植、短期間だけ出回った特殊マトリクス(例:誤刻印)などは希少性が高く評価される。

 

⚠️ 逆に評価が落ちやすいマトリクス

 

PDO UK(1988〜93年頃) → 「ブロンズ化」劣化で減額対象。

 

リビジョンが進んだ後期番号(例:08、09など) → 初版性が薄れるためコレクター需要が弱い。

 

SIDコード付きの後年プレス(IFPI入り) → 実用的には問題ないが、希少性は低い。

 

まとめ

 

「01」「1A1」などの初期番号

 

「W. Germany」「Made in Japan」などの初期工場刻印

 

特殊ロットや誤植版

 

これらが付いたマトリクス番号は、クラシックCDのコレクター市場で 評価が高くなる傾向 にあります。
ただし、商品によりましては、マトリクス番号が希少性を持っていても評価に影響がなくなってしまっているCDも増加しています。
サブスク、YouTube等により、無料、または安価な月額で大多数の音楽を聴ける時代。

 

急速な変化により、中古市場にも様々な影響が生じており、その歪みはクラシックにも大きな波として押し寄せてきており、過去に高い価値のあった商品も、現在では一般の商品と評価がほとんど変わらなくなってしまったものも多くなってきています。

 

 

クラシックCDは価値がないとみなされ、本当に価値のある商品も、多くの商品の中に埋もれていってしまう可能性も高くなっています。

 

価値のあるものを残していくには、知識が必要です。
無料や安価で音楽を聴く時代、この流れは止めることはできません。
ただ、そんな時代だからこそ、物を所有する価値を感じる人もいるはずです。

 

サブスクやYouTubeは音楽を聴くことはできますが、所有するものはありません。
録音できたとしても、自分で聴くだけで商品価値としては皆無です。

 

良い音源・素晴らしい商品を所有・コレクションする喜びは、時代を超えて続いていくと考えています。

 

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